お父さん、命の素を見てみませんか?
産婦人科医師  竹内 正人
 
「行け〜! 頑張れ〜!」
 産婦人科医になりたてのころ、精液検査の練習のため、自分の精液を顕微鏡で見たことがあります。皆さんは精液1ccあたりのだいたいの精子数を知っていますか? 最近では、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)の影響もあり、精子が減少していることが話題になっていますが、正常値は2000〜4000万以上です。すごい数でしょ。 4ccもあれば、日本の人口を越える精子がそこにいるんですから!
 誰もいない夜の産婦人科外来で、野鳥の会の人が持っているようなカウント計を右手に、顕微鏡をのぞいて、一人、カチャカチャ。想像するとちょっと、恐ろしい絵ですね(笑)。
 カウントしているうちに、胸元がきゅっと締め付けられるような感覚がこみ上げてきました。それは、一見どれも同じおたまじゃくし型の精子ひとりひとり(?)が、実は微妙に形も勢いも違っていることに、改めて気づいたからかもしれません。スマートで形もよく、真直ぐと視野を突き抜けてゆく精子くんがいれば、しっぽが短くて、なかなか前に進めないもの、ぐるぐる回っているだけのもの、すでに力つきて死んでしまっていたり、しっぽがなかったり頭部が変型していて、検査上は奇形と分類されてしまう精子くんもいる。でも、どの精子くんも私のDNAをもった、自分の分身たちなんです。親、祖先から受け継ぎ、子、子孫に伝えてゆく私自身の形なんです。そう思うと、カウントどころでなく、冒頭の台詞につながっていくわけです。医学部の学生実習で、他人の精子を見た時には、決して湧きあがってこなかった感覚です。その後しばらくは、精子くんたちをむやみに捨てられなくなってしまいました(笑)。
 私には2人の息子と1人の娘がいて長男は小学校4年生になります。もし、近い将来、彼が初めて夢精をした時、その精子くんを家族全員で見て、感じたことを素直に話しができるような関係でいれるのが理想です(笑)。
 誕生学協会ができ、縁あって、私も参加させてもらうこととなりました。今は生きにくい世の中かもしれませんが、男性も女性も、大人も子どもも、おじいちゃんもおばあちゃんも、「みんなとつながっているんだな」とか、「私は私のままでいいんだ」と感じられ、どんな境遇であろうとも、それぞれがこの世に生まれてきた意味を意識してもらえる。そんな時間と場所を提供できればうれしいです。
 最近は顕微鏡が売り上げを伸ばしているとか。お父さん、昆虫もいいですけど、まずは、自分の精子を見てみませんか!


takeuchi■ 竹内 正人  (たけうち まさと)

学生時代より世界各国を放浪してきた行動派産婦人科医。日本医科大学、米国ロマリンダ大学、日本医科大学大学院を経て、1994年より2005年夏まで、葛飾赤十字産院勤務。産科部長として母子保健、周産期医療に力をそそぐ。2005年7月、同院を退職。産科医としてより母子にやさしいお産をめざし、JICA医療専門家として海外の母子医療にも携わりながら、活動拠点を日本全国に拡げ、社会に向けて積極的に情報を発信している。医療者、一般向け著書多数。

竹内正人先生の著書
1
赤ちゃんの死を前にして
(中央法規)
2
ペアレンティング・ブック
(小学館)
3
はじめて出会う育児の百科
(小学館)
4
すべてがわかる妊娠と出産の本
(アスペクト)
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